性教育は寝た子を起こす?
小さい頃からの性教育の大切さを伝える活動をしているなかでよく聞くのが、「小さい子どもに性について伝えると、興味を持つのでは?行動に移すのでは?」という心配の声…
でも本当に、性について伝えることで寝た子が起きてしまうのでしょうか?今回は、どうして小さい頃からの性教育が大切だと言われているのか、『性教育は寝た子を起こす?』をテーマに考えてみたいと思います。
寝た子を起こすって本当?
性への興味・関心
子どもが小さい頃に「赤ちゃんはどうやってできるの?」「なんでママにはおちんちんがないの?」と聞かれた経験はありませんか?
幼児期は、自分のからだや自分とは違う人に興味を持つ時期です。男女の違いに気づいたり、きょうだいの誕生やお友達のお母さんが妊娠しているのを見て”いのち”の誕生に興味を持ったり…広い意味で性への興味や関心は、このころからはじまっていると言ってもいいのではないでしょうか。
小学校低学年から思春期が始まるくらいになると、気になる子や好きな子ができるなど人を意識するようになったり、二次性徴がはじまる思春期には性の意識が高まり、恋愛感情を抱いたりするようになったり…(変化や成長のスピードには個人差があるため、あくまでも目安ですが)
小さい頃から、子どもたちは性への興味や関心を持っています。そして、周りの大人たちの言動やメディアから、からだに関すること、性に対するイメージや考えなど様々なことを日々学びとっています。
性の情報源はインターネット⁉
性教育は学校でしてくれたらいいのに…という声も聞きますが、日本の学校教育では、『歯止め規定』というものがあり、月経や射精については教えるけれど、受精の仕組みや性交については取り扱わないものとなっているのが現状です。では、学校でも家庭でも十分に教えられない子どもたちは一体、どこから情報を得ているのでしょうか?
ジョイセフが15~29歳行の人に聞いたアンケート調査「恋愛と性2023」では、性についての情報源は、「インターネットやSNS」が51.0%、「友だち」が33.7%、「恋人・パートナー」27.7%、「学校の授業や教科書」が24.4%、「アダルトビデオ・サイト」が23.7%という結果でした。男性では、「アダルトビデオ・サイト」が、女性では「友だち」が多い傾向にありました。
今の子どもたちにとって、インターネットやSNSは身近で手に届きやすいもの。でも、それらのなかには間違った情報が含まれていることもありますよね。特に、アダルトビデオ・サイトは、大人の男性の興奮をかきたてることを目的にした「妄想」であり「ファンタジー」です。その中には、過激で支配的、暴力的な表現のものも多くあります。
子どもたちは、そういったものを教科書にせざるを得ない状況に置かれているというのが、現実です。この現状を考えると、いつか自然にわかるだろう…とするのではなく、子どもたちに性に関する正しい知識や情報を伝え、性について話せる関係を築くことが大切だと感じています。
”性教育は寝た子を起こす”は誤解!
さて、本題。「性教育をすると、性行動が早まるのではないか」という疑問…これは、本当なのでしょうか?世界で様々な調査がなされていますので、その例を見てみましょう!
義務教育として性教育を実施しているオランダでは、避妊手段の使用率が高いこと、15歳までの性交渉体験率が低いことがわかっています。義務教育で性教育を行い、授業で避妊法にも触れていますが、性交渉体験率の増加につながっていないことがわかりますね。(リヒテルズ直子さん著「0歳からはじまるオランダの性教育」より。こちらもおすすめの本です!)
そして、国際的な性教育の指針・ガイドラインである『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』にも、包括的性教育を受けた子どもたちが以下のような傾向にあると書かれています。
- 性的な活動の開始が遅れる
- 性交渉の回数が少なくなる
- コンドームなどの避妊方法の使用率が高まる
- 自分や他者の身体を尊重する態度が育まれる
また、日本国内の調査でも、性教育を受けた子どもたちは、自分や相手を大切にすること、同意の大切さを理解している割合が高くなっているという報告もありますよ!教えると性行動が早まるのでは…?という心配、吹っ飛んでいきそうですか?いかがでしょう?
性について早くから知ると行動に移すかというと、そんなことはありません。リスクも含めて正しく知ることで、今はまだしないと自分で判断して決められる、相手に伝えられるようになる。正しく知ることで、自分も相手も幸せになるための行動がとれるようになるのではないでしょうか。
今、私たち大人ができること
幸せに生きていけるように、と願うからこそ
「子どもにはまだ早いよ」「まだ知らなくていいよ」と性のことを遠ざけたり、「妊娠したらどうするの!?」と脅すような押さえつけるような声かけをしたり…そんな大人の行動や言葉には、子どもに傷ついてほしくない、トラブルに巻き込まれてほしくないという気持ちがあるのだと思います。
ただ、子どもが性について知る権利を奪ってしまうこと、性に対してネガティブなイメージを植え付けることで、本当に子どもたちを幸せにできるでしょうか。私自身知りたいのに知れない環境で、性をよくないことように伝え聞いた経験から、好きな人と触れ合いたいと思うことに罪悪感を持っていましたし、性に対してネガティブなイメージを持っていました。
好きな人とこころが通い、触れ合うことでこころもからだも心地よく喜びに満ちた気持ちになれることを今の私は知っています。”性”は、私が生きていく上で欠かせない大切なものだとも感じています。
子どもたちには、性を肯定的に捉えてほしい。なので、予期しない妊娠、人工妊娠中絶、性感染症のような性に関するテーマの否定的な部分だけを切り取り、性を悪いことのような、否定的なイメージを植え付けて性に近づかないようにすることは、私自身避けたいなと思うのです。
実際、予期しない妊娠や性感染症などのトラブルは防ぐ手段があります。そのためには、やはり正しい知識が必要なのではないでしょうか?そして、お互いに言葉で気持ちを伝え合えるようになること。そんな人間関係を築く力を身につけられるようになるためにも、包括的性教育が大切だなぁと感じます。
幸せに生きていくための性教育
大人が性の話を恥ずかしいと思ったり、いやらしいと感じたりすることに、良い悪いということはありません。私たちも性教育を十分に受けてきていないので、そう思って当然だと思います。
ただ、子どもたちがこころもからだも健康に幸せに生きていくために何ができるだろうかと考えたとき…私は子どもたちと一緒に性について学んでいきたいなと思うのです。学ぶことで、子どもたちの幸せにも、私の幸せにも繋がっているのを実感しています。
性教育と聞くと、性交や生殖についての話でしょと思う方も多いかもしれませんが、それだけではありません。性教育は、人がこころもからだも健康に幸せに生きていくための学びです。以前書いた記事も参考にしていただけると嬉しいです⇩

まとめ
「性教育は寝た子を起こす」と言われることがありますが、実際には、性教育を受けたからといって性行動が早まるわけではありません。それが心配でおうちでの性教育どうしよう…と思っている方がいれば、少しでもその不安を解消できたらと思っています。
性教育は、性交や生殖にまつわることだけを伝えるものではない。自分や相手を大切にするため、自分や相手のこころとからだを守るため、自分らしくこころもからだも健康に幸せに生きていくために、大切なことを学びます。
子どもたちが自分自身を大切にし、誰かとあたたかい関係を築きながら、幸せに生きていけるように。性を「恥ずかしいこと」「いけないこと」とするのではなく、大切なこととしてこれからも伝えていきたいなと思っています。
今回参考にした書籍はこちら⇩
『0歳からはじまる オランダの性教育』オランダが歴史的背景からどのように性教育を取り入れてきたか、どんなことを義務教育で学んでいるのかがわかりやすく書かれています。